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社会を希望で満たす働きかた
ソーシャルデザインという仕事
今中博之著

¥1,760 (税込)

100万に1人といわれる先天的な障がいのある私は、なぜ「デザイナー」になったのか −−。 それは、障がい者と健常者が共に希望を見出し「意図的な企て」を実行するためだった。デザインは常に職業や階級を差別化するために使われてきたという歴史がある。しかしデザインに差別化する力があるなら、「非差別化する力」もあるはずだ。社会福祉法人を立ち上げ、現在は東京2020組織委員会文化・教育委員を務める今中博之が、ソーシャルデザインについて思考を深め、書き上げた一冊。

著者 今中博之
装幀 水戸部功
発行 朝日新聞出版
定価 本体1,600円+税
四六判並製/240ページ
2018年10月19日 第一刷発行
978-4-02-331740-6 C0034

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[ 目次 ]
はじめに
− ソーシャルデザインという仕事は「社会的課題」を「希望」に変えることだ


第一章 ソーシャルデザイナーの仕事
「デザインと福祉」をつなぐ
水と油と見なされてきた「市場と福祉」/「経済なき道徳は戯言であり、道徳なき経済は犯罪である」
隣にいる「ふつうではないとみなされる人」とコミュニケーションをとる
障がいとは、社会の環境が整わないこと
「ふつうの人の意識を変えるデザイン」が求められている
ソーシャルデザイナーの最もシビれる企て
「経済原理」と「道徳原理」の融合を目指して
インカーブのアーティストの作品への評価/障がい者の社会参加の障壁となっているもの

第二章 ソーシャルデザインは「コノユビトマレ」から始まる
インカーブがおこなっている「コノユビトマレ」
作品の尊厳を傷つけない「美術館」での発表/アーティストのみで作った作品を市場に出す 消せないジレンマを丸抱えにして行動を起こす 「閉じながら開く」と「タフさとラフさ」
デザインの思考や手段で「生活の困りごと」を解消する
「コノユビトマレ」で問題を可視化していく/身の丈にあったネットワークをつくる

第三章 「ソーシャルワーク」から「ソーシャルデザイン」を考える
利益追求を第一義にせず、「社会貢献」をおこなう
社会を「希望」で満たすためのコミュニティ 共感力を反映できるのは一五〇人
デザインは狭義と広義に分けて考える
「障がい者のための社会福祉事業」を興すことも、広義のデザイン/永続的な社会貢献と商いを絡めて考える/「ソーシャルデザイン」と「コミュニティデザイン」
「価値のある社会的企て」をデザインする
「残りの九〇%のためのデザイン」
ソーシャルデザイナーに必要な能力①─「社会的課題」を「発見」する能力る
怒りが生まれてくる課題を発見する/「仏教抜きの経済学は愛のないセックス」
ソーシャルデザイナーに必要な能力②─「バランスの良い」意図的な企て
「孤独を手に入れる」ことの意味
ソーシャルデザイナーに必要な能力③─課題を「整理整頓」する能力
「可視化する能力」の身につけかた
ソーシャルワークとソーシャルデザインに共通する課題
ソーシャルワークが実践の対象とする三つの領域/「公的責任から自己責任への転換」に抗う

第四章 デザイナーは本来、「社会改良者」である
近代デザインの祖、ラスキン
不完全でないならば、それは良いものではない/「固有価値」は、自由な創造的活動から生まれる
詩人、デザイナー、社会改良者のモリス
「生活と芸術の一致」を主張し、芸術からの社会改革を訴えた/コミュニティを拡大・発展させ、社会運動へと変化させる
トインビーとセツルメント運動
貧困層や労働者とともに生活をする「セツルメント運動」/インカーブは「矛盾に満ちた社会的実験」と呼ばれた/トインビーがセツルメント運動にかけた思い

第五章 「デザイン」と「アート」の境界線を考える
真綿に包まれた「劣等性」という幸運
「人を慮ること」から生まれるデザイン
デザイナーは共同体の中で生きる
デザインの仕事は個人ではできない
「私のデザイン」と呼べるものを探して
驚きも感動もなかった「デザインのお手本」
「アート」だけが「オリジナル」を生む
アートとデザインの違いを教えてくれた「シュヴァルの理想宮」
デザイナーは共同体のためにチームを組む
デザインは他者のためにつくり出すもの/「私たち」でチームを組んでケアを行う理由

第六章 「熱い胸」と「冷たい頭」をもった組織を目指す
インカーブはアーティストを支援する組織
インカーブのアーティストに立ちはだかる「壁」/私たちの「マインド・バグ」を発動させないための組織づくり
「なんとなく、分かる」ゆらいだ状態を受け入れる
クライアントとの信頼関係を築くために必要なこと
身の丈にあった「組織のサイズ」を考える
仲間のような集団「タリアセン・フェローシップ」/アルバイト・パートなどで相互扶助制度を完成させることは難しい/福祉は、小さな単位においてこそ実現可能
「クライアント」と「デザイナー」の距離を考える
インカーブには「先生」も「教えること」も「指導」も存在しない/デザイナーや支援者の善意の暴走を起こさせないために
「熱い胸」だけで突き進むと、大きな判断ミスを誘発する
「小さな、理解の届く集団」なら「中道」をつくり出せる/「少欲にして足るを知る」ための処方箋

第七章 「社会福祉法人」を使い倒す
社会福祉法人の仕組み
社会福祉法人は、「公の支配」の下で福祉・慈善事業をおこなう/社会福祉法人格の取得という、意味のある企て
なぜ社会福祉法人にこだわるのか?
「より安定的」な運営を可能にするために社会福祉法人は「公と共と私」をつなぐもの
「閉じながら開く」組織がもつ力
「言葉なき言葉」を理解するために/組織は「自分のためだけの言語」を獲得する場所でもある
公務員や政治家とも協働する
厚生労働省と文部科学省をつなぐデザイン

第八章 「公と民の新しいコラボレーション」を模索する
「経済学」も「社会福祉学」も目指すところは同じ
人間は自らの行動原理に従う
「悪気のない善意」に抗する
アール・ブリュットは、既存のアカデミズムへの異議申し立て/デザイナーが担う職業的使命
「普遍性のある企て」をデザインする
一般的な「日本のソーシャルデザイン」との違い/取引することでお互いがハッピーになるのが市場
「市場のルール」と「専門的就労」を尊重した分業が望ましい
「市場の匿名性」と「市場のルール」を活用する/すべての人間が多くの他者に依存している/市場の中では解決できない種類の分業もある
二段ロケット―「公と民の新しいコラボレーション」
「公」による下支えの力を借り、市場に打って出る/「公」が守り「民」が育てる「ダブル・アシスト」/ソーシャルデザインは「私」の問題を普遍化する

第九章 ソーシャルデザイナーが直面するジレンマ
「ケアとコントロール」から生じるジレンマ
「外へ向かう仕事」と「内へ向かう仕事」/「コンテンツ=作品」の尊厳を傷つけてはいけない
インカーブによる「ラディカルな実践」
それぞれの身の丈にあった仕事をおこなえばいい/この世で愛でられる時間を長くする
ローカルを射程に入れて、行動する
インド発「ユニバーサルデザインの新五原則」/ソーシャルデザインの未来はローカルにある
福祉領域への参加者を増やす試み
「アートと福祉」をつなぐプラットフォームづくり/「おなじ釜の飯」プロジェクトと輪読会
ソーシャルデザイナーは当事者ではない
トラウマ的なできごとは「困りごと」の原点/スピリチュアルな部分に分け入る覚悟をもつ

第一〇章 「ふつうではないとみなされる人」と「ふつうの人」の境界線を越えて
デザインには非差別化する力もある
「社会福祉の市場化の限界点」を越えていくために/デザインの創造性は「問い」にかかっている
ソーシャルデザイナーによるエンパワーメントは可能か
エンパワーメント理論に対する違和感/ソーシャルデザイナーに向けられた問い/同じ地平に立つ「われら」は、その時が来るのをじっと待つ
「障がい者文化」も「ふつうの文化」として社会に提出する
スティグマは、社会の標準や基準から外れることによって生まれる/「ふつうではないとみなされる人」は社会のマジョリティになりつつある/国の施策を手なずけることも、デザイン
「希望の仕組み」を新たに企てよう
あくまで神はディテールに宿っている/デザインは、そもそも「社会性のある企て」

あとがき

[ 著者 ]
今中博之(いまなか・ひろし)
1963年京都市生まれ。ソーシャルデザイナー。社会福祉法人 素王会 理事長。アトリエ インカーブ クリエイティブディレクター。 公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会:文化・教育委員会委員、エンブレム委員会委員等。 厚生労働省・文化庁:障害者の芸術文化振興に関する懇談会構成員、障害者文化芸術活動推進有識者会議構成員等。 イマナカデザイン一級建築士事務所代表。金沢美術工芸大学非常勤講師。偽性アコンドロプラージア(先天性両下肢障がい)。 1986年~2003年、(株)乃村工藝社デザイン部在籍。2002年に社会福祉法人 素王会 アトリエ インカーブを設立。 知的に障がいのあるアーティストの作品を国内外に発信する。ソーシャルデザインにかかわる講演多数。 グッドデザイン賞(Gマーク・ユニバーサルデザイン部門)、ディスプレイデザインアソシエイション(DDA)奨励賞、 ウィンドーデザイン通産大臣賞など受賞多数。
アトリエ インカーブ

著書に『かっこいい福祉』(左右社)
『社会を希望で満たす働きかた─ソーシャルデザインという仕事』(朝日新聞出版)
『観点変更─なぜ、アトリエ インカーブは生まれたか』(創元社)など。

*役職名や所属先のデータはこの書籍が刊行された当時のものです